リセット

2013年6月16日 読書
再読。


遠く、近く、求めあう二つの魂。想いはきっと、時を超える。『スキップ』『ターン』に続く《時と人》シリーズ第三弾。
「また、会えたね」。昭和二十年五月、神戸。疎開を前に夢中で訪ねたわたしを、あの人は黄金色の入り日のなかで、穏やかに見つめてこういいました。六年半前、あの人が選んだ言葉で通った心。以来、遠く近く求めあってきた魂。だけど、その翌日こそ二人の苛酷な運命の始まりの日だった→←流れる二つの《時》は巡り合い、もつれ合って、個の哀しみを超え、生命と生命を繋ぎ、奇跡を、呼ぶ。
Amazonより



『リセット』では時が優しいんです。
p.434宮部みゆき・北村薫対談より

そう。『スキップ』『ターン』では時間の過酷さが際立っていました。今回は時間が優しく愛おしい。

簡単に言ってしまえば恋愛小説にファンタジー的要素をプラスしたような感じ。ロマンチックすぎてファンタジーの領域にまで入ってる。
でも恋愛も、今よくあるような大好きーーーぶちゅううううみたいなものではなく、奥ゆかしく、慎ましやかな恋愛。

戦争の時代に、男と女が並んで歩くこともできないような時代に、たった一言の言葉に惹かれ、恋心を秘め、少なくとも交し合った確かな言葉と通じ合えた心、密かなプレゼント・・・。
お互いがお互いを想っていた故に、悲しいことが起こっても、その想いは時を超え、終には結ばれる。

戦争の頃の設定も興味深く、特にその頃のお嬢様と呼ばれるような富裕層のお話はあまり聞いたことがなかったので面白かったです。その時代の人の想いや考え方、暮らしなど、もっと知りたくなりました。




東の野にかぎろひの立つ見えて
 かへりみすれば月西渡ぬ
(p.81)

柿本人麻呂の有名な歌です。本編の重要なところではありませんが、ちょっと感動してしまいました。私たちも学校で一番最初に習うような歌を、この頃の人も学んでいる。こんなところでも時間の不思議を感じてしまいます。また、私たちはこの歌を、シンプルだけどよく考えられたとてもきれいな歌、くらいに考えますが、この頃の人はこの歌に、人の死を超えて動く大いなる時を見ていたとのことで、時代で感じ方がこんなにも違うのかと思わされます。
それにしても和歌って美しいです。ちゃんと勉強してみたい。


別の歌。
ドイツの映画『会議は踊る』よりリリアン・ハーヴェイの『唯一度だけ』。

わたしは泣いたり 笑ったり
どうしていいか 分からない

御伽噺じゃ なかったわ
ほんとにほんとの ことだった

ただ一度 ただ一度
二度とない この奇跡
明日は消える つかの間の
たった一度の夢の時

空が青さを なくしたら
とこしえの この愛を
信じつつ さあ
お別れの手を 振りましょう

分かっています 人生が
与えてくれるのは ただ一度
だって春に だって春に
五月は一度しか来ないでしょう
pp.342-343

参考までに
歌(Youtube)
http://www.youtube.com/watch?v=e2rK-Y5fF7U
原曲歌詞
http://ingeb.org/Lieder/weinichl.html

デン・イェーダー・フリューリング
 ハット・ヌーァ・アイネン・マイ
(p.172他)

この歌も、色々な意味を考えてしまいます。戦争の最中には悲しい歌に聞こえるかもしれません。でも二人にとっては二人を結びつけた歌。春に五月は一度しかなくても、春は毎年やってくる。時は巡る。


もう一つ二人を繋いだ歌。


かの時に言いそびれたる大切の
 言葉は今も胸にのこれど
(p.318他)

今度は石川啄木の歌。意味は分かりやすい。小学生の頃の修一さんがまあちゃんに送った歌だけど、ほとんど告白(歌の意味じゃなくて歌留多の絵が似てる似てないで選んだのだけど)。言えなかった言葉、誰にもたくさんあると思います。この戦争をしてたような時代には特にそうでしょう。転生は胸にのこった言葉を言うためでもあったと思います。この本で知った歌ですが分かりやすく覚えやすいのですぐ好きになりました。大切にしたい歌です。


そして何より何より、しし座流星群。


星です。わたしの最初の記憶は、流れる星なのです。
(p.7)

から始まり、


そして時は流れ、星はまためぐり続ける。
(p.424)

で終わるこの小説です。33年に一度訪れるという星の雨。二人のスタート地点であり、ゴールでもあり、巡り会わせてくれた不思議な力も星の力なんでしょうか。
私も見ました。2001年のしし座流星群。家族と一緒に。時間と星と人。
皆様にも素敵な巡り会わせが訪れますように・・・。

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